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適職(1)

 仕事というのは自分で選ぶものではなく、仕事のほうから呼ばれるものだと僕は考えています。「天職」のことを英語では「コーリング」とか「ヴォケーション」と言いますが、どちらも原義は「呼ばれること」です。僕たちは、自分にどんな適性や潜在能力があるかを知らない。でも、「この仕事をやってください」と頼まれることがある。あなたが頼まれた仕事があなたを呼んでいる仕事なのだ、そういうふうに考えるように学生には教えてきました。・・・・・
 「キャリアのドアにはノブがついていない」というのが僕の持論です。キャリアのドアは自分で開けるものではありません。向こうから開くのを待つものです。そして、ドアが開いたら、ためらわずそこに踏み込む。
 労働市場における「適職」という語の意味は、意地悪く言えば、「自分が持っている能力や素質に対していちばん高い値段をつけてくれる職業」のことです。・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 でも、「費用対効果のよい仕事がいちばんいい仕事だ」というロジックを推し進めれば、ディスプレーの前でキーボードをたたくだけで何億円も稼ぐような仕事がいちばん「賢い」仕事だということになります。でも、「仕事をする」というのは「手持ちの貨幣で商品を買う」ことではありません。それはむしろ、自分がいったい何を持っているのかを発見するプロセスなのです。

  朝日新聞記事 仕事力 「キャリアの扉にドアノブはない」 内田 樹(著作家、武道家、神戸女学院大学名誉教授) より

by Bible-door | 2012-04-14 10:50 | 心がうなずいたいた言葉